転生モノ以外で鬼男君が記憶をなくしているのってみないなぁと思って。
私がイメージしている閻魔より女々しい感じがしますが仕様です。キャラ掴みきれてなくて申し訳ないorz
※Attention
・天国
・鬼男くんが記憶喪失
・↑転生後だからとかそういうものは関係ないですがほぼ永久的
・閻魔はいつか記憶が戻ると信じている
・鬼男の一人称が「私」になっている他、自分のことを差す場合は「獄卒風情」など卑下する
・ついでに閻魔のことを「閻魔様」と呼ぶ
・でも言動の端に鬼男が滲んでたりとか……。
・元ネタがあります
以上の事柄でも大丈夫な方はどうぞ~
て言うかタイトル浮かばなさすぎて最早訳がわかりませんorz(泣)
いいのが思いつくまでこのままで保留って事にしてください……あああ誰かタイトルセンスくれorz
『お願いだから前みたいに怒ってよ。刺されたって罵倒されたっていっこうに構わないから』
始めのうちは、ただ単に物忘れが酷いという程度だった。持ってきて、って頼んだ資料を忘れるとか、自分で置いておいた書庫の鍵を何処に置いたか忘れて慌てたりとか。
始めこそオレは「歳なんじゃないの?」とかからかってたし、鬼男くんも鬼男くんで「あんたより歳な訳ないだろうが刺すぞこのイカ野郎」なんて辛辣な言葉を投げてくれていたんだけど。
それからも、鬼男くんはだんだん記憶をなくしていった。
まるでひび割れたものが壊れていくように。裂け目が広がってついには破れてしまった袋のように。
ゆっくりと、けれど確実に、記憶は消えていく。ただその見返りか、いつまで経っても鬼男くんに転生の兆しは見えなかったけれど。
それでもオレは、どうにかして忘却を止めたかった。けど、ひとを裁くことはあっても救うことのないオレの手が、鬼男くんの記憶を救うなんて、どうして出来るだろう。
神だとか言われているオレは結局、オレが持っている鬼男くんの記憶をその本人に植え続けること以外で、鬼男くんを“鬼男くん”として保つこと以外に、何か出来るわけでもなく。
これほど自分の無力さに絶望したことは、多分後にも先にもない。と、思う。
結局鬼男くんは、今までの記憶の殆どを、無くしてしまった。
唯一救いなのは、オレが記憶を植え続けたのが無駄にならなかった、という事。
けれどオレの前に立つ鬼男くんは、鬼男くんと言う器を持った別人になりかけているというのも、また事実。
「閻魔大王」
ふと、筆の手を止めていたオレに、鬼男くんが声をかけてきた。「此方の書類についてなのですが」
「あぁ、それは後で〇〇九弐の書庫に移動させといて。もう検閲済みだから」
「畏まりました」
「それが終わったら十五分休憩ね。オレはもうちょっとやるけど」
「ならば帰りに何かお持ちいたしましょうか。丁度給湯室を通りますので」
「あ、じゃあいつもの―――」
と、そう言いかけて。すぐに目をあげると、目の前の鬼男くんが不思議そうな顔をしているのが見える。
……忘れていた。“いつもの”で通じてた鬼男くんは、もう居ないんだって事。
「ごめん。あのね、冷蔵庫の二段目くらいのとこに、ジュースあるから。それお願い」
「はい」
鬼男くんは深々と礼をして、さっきの書類を持って、部屋を出て行く。
そうなると当然、オレはぽつりと残されたままなのだけど。そんな事、もう気にもならなかった。
だって、鬼男くんは居ない。少なくとも、オレの良く知る鬼男くんは、居ない。から。
鬼男くんの形をしたモノと一緒だとしても、オレは一人ぼっちだ。
オレがセーラー大好きで、見つかるたびに「この変態大王イカが!」と爪を刺してきたりとか。
仕事を抜け出して天国で遊んでいる時に「さっさと仕事に戻ってください」と連れ戻しにきたりとか。
壁に寄りかかって器用に寝る癖を持ってたりとか。寝言で変な事言ってたのをからかって怒られたりとか。
そんな風に付き合ってくれた鬼男くんはもう居ない。から。鬼男くんの器といるようなもの、だから。
あー駄目だ。思い起こしてたら泣けてきた。今更そんな事言ってもしょうがないのに。
とりあえず溢れそうになったものを堪えて、けど万が一零れたりなんかしちゃいけないから、書きかけの巻物なんかを全部片付けて机に突っ伏してみた。
当たり前だけど光なんかを一切入れようとしないから、見えるところは殆ど暗い。それでも光を全部遮断するなんて出来ないし、その分ぼんやりと机の色がオレの目の前で浮かぶんだけれど。
……いっそオレの記憶もこんな風に、暗い中で溶けて消えてしまえばいいのに。
これじゃ、君が転生していなくなったのと、何も変わりがないじゃんか。
けどもし、万が一このままの状態で君が転生することになったりしたら、オレはどれだけ惨めな気持ちになるんだろう。
そう考えれば、記憶をなくしていくかわりにずっとここにいる、なんて奇妙な事になっちゃってるらしい鬼男くんでも構わないなんて思える辺り、オレはよっぽど鬼男くんを離したくなんかないんだろうな。
そんな事考えてる間にふと、、廊下の方から小気味いい足音が聞こえた。帰ってきたんだろう。けどオレはやっぱり顔を上げることが出来そうになかった。
「閻魔様、ただいま戻りました」
「……ん、おかえりー…」
「どうされました?ご気分でも優れないのですか?」
「なんでもない」
反論なんか許さないとばかりに語気を強める。ここで前なら何でもない訳ないだろなんて言ってくれるんだろうけど、今の君は、きっと。
「何でもない訳ないでしょう」
そんな風に言ってくれない。なんて、思ってたから。
その言葉が来たとき、正直にびっくりした。
「貴方はそうやっていつも、隠し事をする」
顔をあげてみると、鬼男くんはどこか困ったような、悲しいような笑い方でオレを見ていた。
この手の話題になると、いつも鬼男くんが見せていた顔。
もうずっと昔に跳ねるなんて行動を忘れていた心臓が軋んで、痛くなる。
「そういう隠し事は聞きませんよ。貴方は態度に出やすいんですから」
それは紛れもなく、オレが知ってる鬼男くんがかけてくれた言葉に違いなくて。けどそれが同時に、植え込んだ記憶を辿っているだけだって言うのもオレにはわかってしまっている。
けど。
だけど。
何でだろう、すごく胸が、苦しくて、たまらない。
「鬼男、くん」
「何でしょうか、閻魔様」
「……」
「閻魔様?」
ああ、オレはなんて馬鹿なんだろう。
目の前にいる君は君であって君じゃない、器だけでしかないってのに。オレの知ってる鬼男くんは、もう、いないのに。
今の“鬼男くん”が見せるかつての面影に、こんなにも胸を焼き焦がすなんて。
「閻魔様、どうされたのですか?」
「……」
「どうして、涙を流されるのですか?私に何か至らない点があるのでしたら、直ぐにでも改善いたしますが」
「……いいんだよ。君は全然…悪く、なんか……ないから」
「ですが」
何か言いかけた鬼男くんの言葉を手で制して、立ち上がった。
そうして、もう机に飲み物を置いてくれてた鬼男くんに、近づいて。
「そんなに言うなら、さ。オレの事、抱きしめてよ」
「……それは、獄卒風情の私めには出来かねます」
「オレは獄卒なんかに頼んでない。君に頼んでんだよ」
「……」
鬼男くんは、困ってるみたいだった。元からあんまりこういう行動は苦手だったみたいだから、無理にとは、あんまり言えないけど。
けど、鬼男くんは。わかりましたとそう言って、オレの事を抱きしめてくれた。
勿論、オレが知ってるような抱きしめ方じゃなくて、明らかに躊躇いが浮き彫りになってる、そんな感じだったけど。
「鬼男くん、やっぱ君……あったかいね」
「閻魔様が冷たいだけ、でしょう?」
「……そう、だね。そうかも」
あやすように頭を撫でてくるその仕草は、やっぱりオレの知ってる鬼男くんだったから。
悪いとは思ってたけど耐え切れなくなって、涙が零れるに任せる他、どうしようもなかった。
それでもずっと、躊躇ったままではあったけど抱き寄せてくれてる鬼男くんが、すごく愛しくて。
けど、愛しいのと同じ分だけ、すごく哀しかった。
もう、“君”はどこにもいないんだね。
鬼男くん。
『 』
(開ききってしまった空白。そこに必死で植えつけた過去。)
***
転生ネタ以外での鬼男くん記憶喪失と言う新しいものにチャレンジしてみました。
元ネタは私が今でも尊敬する作家、と言うか創作仲間の先輩のとある作品です。記憶を失っていって全部記憶がなくなると死んでしまうという病気にかかった女性と、その旦那さんの話。
あの話が本当に好きだ。泣けた。
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