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2024.09.21 - 
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ある暑い日の話です。

天国でお盆の話。
ちょっとだけ「オムライスと秘書二人」の話を匂わせるような仕様です。
お墓参り。
じーわ、じーわと蝉が鳴いていた。
窓際につるした風鈴があるかなしかの風に揺れているが、室内はと言うと、扇風機なしで過ごせるとは到底言えそうもないくらいの蒸し暑さに満ちていた。
枕もとの温度計を見ようとして、しかしその目もりがありえない数値を示すのを目の端がとらえてしまったものだから、鬼男は早々に諦めてベッドに転がっていた。
扇風機の温い風が幾度も、鬼男の前髪で遊ぶ。それをうっとおしく払いのけ、ごろりと背中を向けて、カーテンも半分以上しまった窓際に顔を向けた。
同居人は留守にしている。昼間の暑い時に何やら用事があるのだと出て行ってから、それっきりだ。
友人にでもメールしようと携帯を取り出してはみたが、ああそういや今日までお盆だったっけか、と考えて、止めた。
……お盆、か。
背中に生温い風を受けながら、ぼんやりと鬼男は思い起こす。

実家に帰ってすぐの夕刻に行った、墓参り。
じりじりと焼ける石に、そういえば暑いのは嫌いだったなと何度も水をかけたこと。すぐ駄目になるからと、実家に居た時毎日のように花を買いに近くのスーパーへ行っていたことも、つい最近のはずなのにずっと前のようだ。
百合は駄目だ、と確か、実家の近所にいる昔馴染みのおばさんが言っていた気がする。
花は大きくて綺麗だが、この炎天下では1日も待たずに萎れてしまうと。
造花で済ませているところもあったし、幾つも灯篭が立てられている墓もあった。時間が時間で涼しくなったからだろうか、蝉のじわじわ鳴く声に混じるように、ひぐらしが静かに歌っているのを、聞くともなしに聞いていた。
こちらへ帰ってきたのは、つい昨日の話だ。バイクを飛ばして帰った夜中、流石に暑いからと珍しく同居人がつけてくれたクーラーに甘えていた時、ふと彼がこんなことを聞いた。
「鬼男くん、何で墓参りなんてするんだろうね」
「さぁ?故人を偲ぶためじゃないですか」
「でもさ、こんなこと言ったら失礼だとは思うけど、墓参りしても亡くなった人は帰ってこないし傍に来てくれるわけでもないし。ただ寂しくなるだけだよ。亡くなった人を思い出して、寂しくなるだけだ。だから俺は墓も遺影も位牌もみんなみんな」
嫌いだ。
そういう同居人が何故か、怒っているような、泣きそうな顔で言うものだから。そうですか、と当たり障りのない言葉だけを残して、逃げるように風呂へ足を運んだ。線香にと焚いた白檀の香りがなんとなく、同居人を苛立たせてしまうのではないかと、何故だかその時怖くなったから。

「………」
じーわじわと蝉が鳴く。じりじりじりと鳴く。
強かった日差しがだんだんと紅を帯びてきて、閉じかかっていた瞼を引きあげてみれば、いい具合に太陽の強すぎる光を隠してくれた雲が柔らかなピンクになっていた。
持ったままだった携帯に気だるい指を滑らせる。
ぼやけた電子画面が浮かべた時刻は18時ちょうど。
もう少ししたら、夜になってしまう頃合いだった。
「鬼男くん」
ちょうどその時、がちゃと無遠慮な音を立てて部屋の扉が開かれる。ずるずるとベッドに縋る微睡みかけた体を起こしたその先、ぼんやりした目が彼の同居人をはっきりと捉えた。
「ぁ……大王。おはようございます…」
「え、まさかとは思うけど俺が出かけてくるねって言ってからずっと寝てたわけ?」
「あいにく寝始めたのはついさっきです、多分。……何か用ですか」
がしがしと乱れた髪を手ぐしで乱暴に整えながら言う鬼男に、同居人は…閻魔は答えた。
「お墓参り。鬼男くん、ついてきてくれないかな?」



柔らかな色をしていた雲が、昼間の激しさが嘘のように穏やかな光を降らせていた太陽が、澄んだ藍色に塗りつぶされていく。
夕刻と夜の境目、黄昏時。
幾つもの石が無言で並ぶ墓地一角、他のものより小振りなそれの前に、閻魔と鬼男は佇んでいた。
添えられた花は、幾度もの春と夏と秋と冬を越えてきたのかは知らないが、原型も分からないくらいに枯れ果てていて、触るとぼろぼろ手の中で崩れた。
閻魔は墓前に添えるためだろう花束を、鬼男は水を満たした桶に柄杓を突っ込んだものを手にして、墓を見ていた。
閻魔の目は、じっと墓石を見ている。嫌いだ、と憎しみさえ込めていた同居人の姿は、ここにいない。
沈黙に耐えかねて、鬼男が墓石へ歩み寄りそっと水をかける。柄杓で掬って、一度、二度。三度目をかけようかと言うところで、もういいよ、と閻魔が声だけを寄越した。
「寒いのが苦手な子だから。今から夜になって気温が下がったら、風邪引いちゃうかも知れない」
「……あの、大王」
「んー?」
返ってきた声はいつもと何ら変わらない調子で、鬼男の鼓膜を揺さぶった。それでもこの同居人がいつもと違うように見えるのはきっと、斜陽が影を作って彼の顔に憂いを縁取るからだろう。
それは。と、鬼男が恐る恐る聞く声が、夕方の蒸し暑い空気を揺らした。
「誰の……お墓、ですか?」
「親友。であり、同僚であり後輩であり、初恋の人…かな」
と言っても女じゃないけどね、と閻魔はけらけら笑った。何故聞くのと、あの怖い声で問いかけられたらどうしようとびくびくしていたと言うのに、肩透かしをくらった気分だ。
それをあくまでくらった気分だと言わざるを得ないのはやはり、その顔が黄昏がもたらすもの以外の憂いを孕んでいるから、なのだろうが。
「……今でも覚えてるよ。俺は日本酒に煩いと自他共に認めるくらいだけど、あの子は日本酒嫌いでね。如何に日本酒が美味いかとか、いや日本酒なんかよりウィスキーだあんな喉が焼けるもん飲めるかなんて、朝まで騒いだこともあった。得意料理はオムライスですなんて言うから作れよって言って、実際作らせたら悔しいけどめちゃくちゃ美味くて、得意気にしてた頭をぺいっとひっぱたいて何なんだコノヤロウって取っ組み合いになったこともあった。いつまでも続くんだなぁって、そう信じて疑わないような楽しい時間だったよ」
「それだけ大事な人のお墓参りを、どうして今まで」
「裏切られたって、思ってた」
吹き抜けた温い風が、辺りの真新しい雑草を揺らす。
「仕方なかったんだ、事故でどうしようもなかったんだから。でも言ったんだよあの子、ずっと傍にいてやるって。俺が寂しがりなの知ってるから。でも俺を残して死んじゃったんだよ。
分かってたんだ仕方ないって。でも俺はどうしても許せなかった。約束破りやがって、絶対に許さないって」
興奮したかのように饒舌な閻魔の声は、驚くほどに底冷えしている。
鬼男は黙ったままで、閻魔が落ち着いて喋るのを待った。
「……あの子、施設育ちなんだ。だから誰も墓参りになんか来ない。亡くなってからしばらくは、施設の人がちょくちょく来てたっぽいけど」
「だから、ですか?お墓とか遺影とか…そういうのを嫌いだと言ったのは」
「そうだよ。あの子が裏切ったと思ってた俺にとって、見たくもないものばかりだった。墓に参って欲しい、なんてあの子の話題を出す施設の人間にすら苛立つくらいだったんだもの」
閻魔の白い手が、墓の傍に添えられた花瓶を手に取る。柄杓貸して、と言う声に答えて渡せば、桶の水をゆっくりと、枯れた花を抜いた空っぽの花瓶に注ぎ始めた。
ひたひたと満ちていく花瓶。
見つめる閻魔の瞳は、しかし砂のように乾いて、水滴という水滴を蒸発させるなど容易いだろうとまで思わせた。
他の誰とも同じように、潤っている瞳が。
「今になってようやく、墓参りしようって気になったんだ」
君が実家から線香の香りを引っ張ってきたせいだな。そう言いながら、溢れる直前まで水を入れた花瓶に持ってきた花を無造作に挿し入れる。当たり前のように溢れた水が、泣かない閻魔の代わりに砂利を濡らした。
……忘れられないんだ。
その、普段より小さく見える背中を見ながら、思う。
ずっと一緒にいると約束して、それでもその約束は守られなくて。きっと彼は法要の席で、住職か誰かに言ったのだろう。俺を裏切ったんだ、絶対に許すものか、と。
それほどに憎んでいると言うのに(その感情は憎しみより憂いと言うべきなのかも知れないが)、どうしても忘れられないんだ。
忘却の彼方へ葬り去るにはあまりに甘美な、けれど共に過ごすその人がいなければただ悲しいだけの、その記憶を。
「大好きだったんですね。この人のこと」
「まぁ、確かに初恋っちゃ初恋だったけど、大好きかと聞かれたら……どうだろ?好きじゃなかったかも知れない。けど愛してたような気はする。曖昧だけど、その方が近いよ。きっと」
「だから、許せない?」
「さぁ…どうかね」
いつの間につけたのだろう線香から立ち上るのは、鬼男がおととい連れ帰った白檀の香り。
「ただ言えるのは、あの子の墓参りをしようと思ったきっかけが、君だってことくらいかな」
あ、でも勘違いしないでね君をあの子の代わりだと思ってないから。何を言ったでもないのに閻魔は、そんなことを口にする。
何も言ってませんよ、と鬼男は、呆れたように目の前で言い訳する同居人を見つめた。
「いやぁ念のために言おうかと」
「何に対する念のためですか」
「君が嫉妬しないようにだね……」
「はっ、何で僕があんたみたいなイカに嫉妬しなきゃならないんだよ」
「イカじゃないよ!毎回言うけど俺、そんなに柔軟になった覚えないもの!!」
「あんたの柔軟さなんかどうでもいいよ。……大王は、この人を許したんですか?」
「ううん、許してない」
きっぱりと、閻魔は言う。
「盆とか彼岸には墓参りに行くよ。施設行って、遺影に顔も見せてやる。でも俺はまだあの子を許せない」
許せない。
そう思うことで、この人は彼の中で生きることができるのだろう。そして彼がこの人を許してしまったら、それこそ目の前の墓は単なる石の塊でしかなくなってしまうのだ。恐らくは。
それでも、許して欲しいと鬼男は思う。それはきっと、顔も名前も知らない「あの子」のためではなく、閻魔本人が過去に縛られ続けないでいて欲しいから、なのだろうが。
「……すっかり日が暮れたね。鬼男くん、そろそろ帰ろうか」
「あ、はい」
思考の海に沈みかけていた鬼男を、閻魔の声が引き揚げる。
逃げるように去ろうとする閻魔に追いつこうと鬼男は足を進めようとして……そっと、振り返った。



「   」


「鬼男くん、置いてくよ」
「今行きますってば!」
墓にかけた鬼男の言葉は、誰に聞かれるでもなく、夜の温い風に四散した。






***
お墓参りのお話。
時間ないのでコメントは後程…!うわあああ何で外sくぁwせdrftgyふじこlp;@:「(落ち着けよ

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本名はフォルデモンド・アエーネス・REIKA・97779・ネフェルタリー
これを略すると「零架」になります
(※大嘘)

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