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2024.05.19 - 
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繋がり、離れ、解けて、落ちる

Skypeで繋がる冥府の閻魔と人道の鬼男くん(転生しているので冥府の記憶なし)
元ネタくださった酒本ちゃんへ捧げます!素敵なネタで書かせてくれてありがとうございますっ(>ω<)


※Attention
・普通にSkypeの話題や描写が出てきます
・冥府の閻魔の部屋にパソコンがあり、人道の鬼男くんと繋がっています
・鬼男くん=高校生(転生済み)
・閻魔は鬼男くんがいなくなって悲しいというのをちょっとずつ忘れている感じです
・鬼男くんは薄ぼんやりと閻魔の声が聞こえるようですが、憶えていません



上記の事柄が入っていても問題なく読める!と言う方は追記よりどうぞ!


…捧げ物にするか迷ったのですが、ネタ拝借のたびに捧げることになると負担かなと思ってこちらにしました;;
酒本ちゃんに限り煮るなり焼くなり晒すなり(!)お好きにどうぞです…!
あ、でももし気にならないなら捧げ物とs(ry



て言うかマジでタイトルセンスないな自分!!!orz



冥府に朝はない。空や陸や川や海はあれど、時間だけはない。時間だけが、唯一ここでの死を許されている。
時間の死骸で作られているこの世界は、ひどく穏やかだ。厚く空を覆う灰色の雲、その雲が晴れたところで見えるのは亡者らが見てきた青い空ではなく黄昏をそのまま閉じ込めたようなものだが、日がな一日雲がかかっているのでその空が見えた試しなどないに等しい。
しかし、この世界が出来た時とほぼ命を共有する門番、名を牛頭と馬頭とする鬼は、何度かその暗褐色の空を目の当たりにしたことがあると言う。
この冥府はひとりの王によって時間の死骸から作られた時からずっと、王の気持ちに呼応して様様に天候を変えてきた。
稲光が遠くで轟くときはここの王が頭痛か何かで苦しんでいる。吹雪く時は機嫌が相当に悪い。
そう、生まれて間もなく覚えさせられた二人の獄卒鬼はしかし、冥府の空に重くのしかかる雲が晴れ、空が垣間見える時の王がどんな気持ちでいるのか、生憎理解できなかった。
そうやって空が晴れることなど、無きに等しかったからだ。
「嗚呼そうだ、思い出した」
「何だね薮から棒に」
「冥府の空が晴れた事があったろう」
「そうだったか」
「確かそうだ。あれは何時だったか、閻魔大王に新しい秘書が就いた時だ」
「思い出した思い出した。そう云えばそんな事があったなあ」
「まあ来てからすぐに晴れたとかそういう訳では無かったようだがね」
「来てからは吹雪くより稲光が多くなかったか」
「頭でも痛めていたんだろう」
「物理的にか精神的にか」
「或いは、どちらも」
「違いない」
「それで、何を急にそんなことを思い出したのか」
「何故と言うなら見て御覧、向こうの空を」
「……嗚呼、成る程」
久々の晴れ間だな。
獄卒鬼が感慨深く呟くその先、僅かな雲の切れ間から、茫洋たる空の破片が見える。




「あー、もう毎日毎日同じことばっかり。いい加減ノイローゼになりますよ俺は。て言うか普通ならとっくの昔にノイローゼですよ全く。そりゃ死んじまうものは仕方ないけどさぁ、ちっとはこっちのこと考えて死んでもらいたいもんだよね。要するに何がいいたいかっていうと、とりあえず自殺しましたとか言うやつは優先的に前に出ろそして俺に殴られろコンチクショウ」
杓で肩をとんとん小気味良いリズムで叩きながら、閻魔は誰に言うでもなく愚痴を零した。
答えはない。閻魔の他にはここに、誰の姿も無い。
「……あーあーあー。何さ何さ皆黙り込んじゃって。いいようだ別に俺は昔から一人だったし、今も一人なんだし、どうせ誰がいても俺の愚痴に辛辣なツッコミなんか入れてくれないんだし、だったら止めますかなんて一見魅力的だけど不可能な提案だってしてくれないんだし、別にだからって寂しいとかそんな訳ないし」
大体俺にそういう感情があるわけないんだし。
そんな事を呟いて、閻魔はがたんと椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がった。
当たり前のように、豪奢な飾りを施している割には軽い椅子がそこそこ派手な音を立てて倒れこんだ。閻魔はそれを無視して、大また開きに引き戸まで歩み寄ってがらりと勢いよく扉を開けた。
世界の一角を陣取るこの建物、閻魔庁は、大きな門で亡者を迎え入れたあとすぐに橋を渡らせてこの裁きの間まで来させる様式を取っている。とは言え橋を渡ればすぐに裁きの間に直結、というわけではなく、橋の先には数段の階があり、そこを上りきって初めて、亡者は裁きの間へと足を踏み入れることができるのである。
閻魔は扉を開け放したまま、廊下を左の方へと歩いていく。ちょうど透廊まできたところで、背後からがらがらと閉まって錠がかかる音がした。何時の間にやら手の内に握りこんでいた鍵を指先に通してくるくる回し、閻魔は口笛を吹きながら歩いた。
掠れた調子っぱずれのメロディが、欄干を越えた先の灰褐色の地面に落ちていく。そういうことなど興味がないといった様子で閻魔は歩き、歩き、やがて、小ぢんまりとした部屋の扉の前についた。
他が寝殿造の様式を模しているという中で、その扉はやけに浮いている。
アーチ上の入り口に幾何学模様をはめ込んだような違和感を持ちながら、それでも建物が異物と感じてそれを追い出さない程度には馴染んでいる、妙な扉であった。
ひゅーひゅー掠れた口笛を続けながら、閻魔は握りに手をかける。押す。開いた扉は特に何を言うでもなく、少し早く帰ってきた主を迎え入れた。
ここは閻魔の私室であった。扉の先は常にぽかりと暗闇が口をあけているが、扉横の壁にぶら下がる提灯似の照明に火をともせば、そこがしっかりと部屋であることをぼんやり浮かび上がらせる。
一言で表すならば、乱雑な部屋だった。足の踏み場も無い、と言うわけではないが、ところせましと物が並べられ積み上げられ転がされている様は、部屋と言うよりも押入れのようだ。
照明のほぼ真下に位置するところには、蓋をしている水瓶と立てかけてある柄杓が揺れる光をその身に受けて佇んでいる。反対側の暗がりには、本棚であろうか、何かしら雑誌のようなものが均等に詰め込まれている棚とクローゼットがあり、滅多にそこを開かない主を物言わぬまま見つめている。
クローゼットの傍でぽこん、ぽこんと様々な色の光をぼんやり生み出すのは、いつぞやに人道でその形に一目惚れして購入した照明(名前をラバランプと言った)。その傍の扉は、閻魔が大好きなバスルームへと繋がっている。
大きな窓は繻子のカーテンが厚く閉ざしているが、この窓のちょうど正面に位置する場所には天蓋がついているキングザイズのベッドが、まるで自分こそこの部屋の真の主であるかのように横たわっており、ベッド横のキャストには、香炉がゆったりと消えかけの煙を立ち上らせて、僅かばかりの残り香を部屋中に振りまいていた。
閻魔はご機嫌のまま部屋の中を歩き回り、ラバランプをひとつ消す代わりにカーテンを引いて窓を全開にした。ひゅうと冷たい風が残り香をさらっていき、天蓋を揺らして、本棚の前にどすりと陣取っていた分厚い本の埃を舞い上がらせた。
窓の外には、どこまでも重く垂れる灰色の空と、同じく灰色の味気ない大地が広がっている。
しかし閻魔は窓を開けただけですぐにくるりと踵を返し、空のことなど知らないと言わんばかりに水瓶の方へと歩を進めた。ちょうど水瓶を前にするほどの位置で立ち止まり、その横の壁、微かに淵が見えるそこをがらりと引いて開けた。
その空間は、全体的に本棚が占めるせいか窮屈な印象こそ受けたが、ベッドが陣取っている前の場所と比べればずっと綺麗に片付いていた。明かりはやはり引き戸の付近にある提灯だったが、それで浮かび上がらせてみても、乱雑という言葉にはほど遠い。
空間の奥へ、閻魔はステップさえ踏みながら歩いていく。本棚が両側から見下ろすその一番奥、大きな机の上に、長方形の物体が置いてあった。長方形からは幾つかの線が伸びて、机の端へと呑みこまれている。
くるくる回る椅子へと滑り込むように腰をおろした閻魔は、暗がりと同じくらいに黒い目を細めながらゆっくりと、壊れ物でも扱うような丁寧さで、長方形へと手をかけて開いた。
開かれた長方形は、下に色々なキーがやかましく並んでいるのに対し、上はただ暗がりと同じように真っ黒だ。
閻魔がもったいぶるようにどこかのキーを押す。ぶぅん、と鈍い電子音がして、先程まで真っ黒だったそこが急に、照明よりもなお明るい光を漏らしだした。やがてその光が幾つかの細かなアイコンを浮かばせた青い画面に変わると、閻魔はますます顔を綻ばせ、キーの下の真四角で指を滑らせだした。
青い画面の海を、白い矢印が泳ぐ。そしてひとつのアイコンにたどり着くと、かちかち、と言う小気味良い音と同時に砂時計のマークへと変わった。
『Skypeへようこそ』
画面と同じ青に縁取られたエリアの中で、そんな言葉が音も無いままよこされる。既に入力されているアカウント名を無視して、割となれた手つきで白い指がパスワードと書かれた欄を埋めていく。
かちっ、とまた良い音が響いた。
ひゅーん、ぴょこっ、と言う気の抜けた音が続く。
コンタクト、と書かれた画面を目で追う閻魔は、そこにひとつの名前を見出して、いよいよテンションも最高潮とばかりに椅子をくるくる回しながらはしゃいだ。
緑に覆われたチェックマークの横には、こうあった。
『鬼男』



閻 やっほー、起きてる?  21:30
鬼男 起きてますよ 21:31
閻 良かったー。君のことだからもう寝てると思った 21:31
鬼男 今日は課題をやらなくちゃいけなくて 21:31
大体、この時間じゃまだ僕は眠くなりませんし 21:31
閻 あー言ってたねぇ早く寝れないって。不眠症? 21:31
鬼男 失敬な。健康がとりえなのに 21:31
閻 あはは、ごめんごめん。でも寝つきは悪いんでしょ? 21:32
鬼男 ええ、あんまり良くないです 21:32
閻 良い方法教えてあげよっか? 21:32
鬼男 言っておきますけど、羊数えるのはもう試しましたよ 21:32
閻 ありゃ、ダメだったの? 21:32
鬼男 210匹くらいまで数えて、数え疲れました 21:33
閻 数えすぎだよそれ!10匹めあたりで眠くなるもんじゃないの?! 21:33
鬼男 いえ、まったく。むしろ柵を越えた羊が何処に行くのか気になって 21:33
閻 変わってるね君……。 21:33
鬼男 そうですか? 21:33
閻 まぁいっか。ところで課題って? 21:34
鬼男 あぁ、高校のです。数学の。 21:34
閻 数学!俺割と得意だよ。と言っても現役の君にはかなわないけどねー 21:34
鬼男 英語 21:34
閻 ? 21:34
鬼男 教えてもらった英語、担任に驚かれたんですよ。 21:35
赤点ギリギリのお前が、全問正解だなんて。とか言われて 21:35
閻 おおー 21:35
鬼男 おかげで天変地異の前触れとまで言われましたけどね 21:35
閻 それはそれは、随分高評価じゃないの! 21:38
鬼男 爆笑してたでしょうあんた 21:39
閻 そんなことないよ 21:39
鬼男 間があきすぎなんだよ返事の! 21:39
そんなに隠し通さなくていいから、笑いたきゃ笑えばいいだろ! 21:39
閻 目ざといなぁ君は相変わらずw 21:39
鬼男 wとか使うな腹立つ^^ 21:39
閻 ^^って怖! 21:40
鬼男 気のせいですよ^^ 21:40
閻 ごめんなさい謝るからっ、その^^止めて怖い!! 21:40
鬼男 分かればいいんですよ  ^^ 21:40
閻 なんていう辛辣な……。 21:41
鬼男 なにか^^ 21:41
閻 ナンデモアリマセン 21:41
鬼男 まったく……て言うか、あんたはこんな遅くまで起きて何してるんですか 21:42
閻 あとは寝るだけだよ。君と一緒 21:42
鬼男 だから僕はまだ課題やるから寝ないって……。 21:42
て言うか、何してるんだって聞いてるでしょうが 21:42
閻 んー、仕事の残りやったり、部屋の片づけしたり、色々かな 21:42
鬼男 仕事してたんですか 21:43
閻 えっ何それ?俺これでもすっごい重要なポストにいるんだけど?! 21:43
俺がいないとダメになるんだからね!! 21:43
鬼男 ……意外すぎてどう反応すればいいやら 21:45
閻 たっぷり悩んでくれてどーも 21:45
鬼男 いえいえ 21:45
閻 皮肉だよっ!ちくしょー、別にいいじゃん君と話す時くらい息抜きしてもさぁ 21:45
鬼男 普段真面目に仕事してるなら 21:45
閻 してるよ八割くらい 21:45
鬼男 残り二割は? 21:46
閻 遊んでるけど 21:46
鬼男 仕事しろ!重要なポストにいるとかいいながらサボってんじゃねぇ! 21:46
閻 エーン鬼男くんの意地悪ぅぅー(TДT) 21:47
鬼男 正論ですけど 21:47
閻 正論って言われるとぐっさりくるんだよ…知ってた? 21:47
鬼男 初めて聞きました 21:47
閻 絶対知ってたよね君?! 21:47
鬼男 どうでしょうね 21:47
閻 鬼… 21:48
鬼男 え?^^ 21:48
閻 すみませんでした 21:48
鬼男 そうですか、ならいいんです 21:49
閻 ……なんか君と話してると懐かしいなぁ 21:50
鬼男 そうなんですか? 21:50
閻 うん。君そっくりの部下が居てね。よく怒られてたよ 21:51
鬼男 へぇ… 21:51
閻 会いたいなぁ 21:51
鬼男 その部下のひとに? 21:51
閻 ううん、君に 21:53
鬼男 僕に? 21:53
閻 うん 21:54
鬼男 部下のひとに似てるか確かめたいとか? 21:54
閻 どうだろう。けど、君に会いたいな。 21:54
鬼男 そうですね。僕も会いたいです 21:55
閻 へ? 21:55
鬼男 重要ポストについてるからどんなお爺さんかと 21:55
閻 いやそりゃ重役って大体年寄りだけど、俺はまだ若いから!30代だからっ!! 21:56
鬼男 そんな嘘つかなくていいですよ。 21:56
僕は口が堅いほうですし 21:56
閻 どういう意味で?!いや、ほんとに若いからっ! 21:57
鬼男 じゃあそういうことにしておいてあげます 21:58
閻 うう、本当なのにい……。 21:58
鬼男 はいはい 21:59
あ、すみません。本格的に課題をやりたいので、そろそろ……。 22:00
閻 あ、そうか…ごめんね、邪魔しちゃって 22:00
鬼男 いえいえ。 22:00
いい気分転換になりました 22:01
閻 そう。なら良かった 22:01
また話しかけてもいい? 22:01
鬼男 ええ。オンラインになっているときは、大体暇なので 22:01
閻 うん。じゃあ、また 22:01
鬼男 はい。遅くにありがとうございました 22:01



始まったときと同じように間の抜けた音が、それの終わりを告げた。
ぎしり、と体を椅子に預ける閻魔の口から、言葉があふれ出す。
「そっか、君はあっちで相変わらず元気なんだね。良かった。俺がパソコンを買ったのはね、実は君がスカイプとか言うものをやってるって知ったからなんだ。初めてインターネットで会った時もしかしてとか思いながら趣味のあう話とかして、仲良くなって、それでスカイプってのを教えてもらったのが始まりだったよね。
君はそのこと、覚えてくれてるのかなぁ。けどまぁ、覚えてくれてようがくれてまいが、どちらでもいいか。君はあくまで賽河鬼男で、俺の秘書だった頃の君じゃないんだもの。けどね俺は嬉しいんだ。君はこんな俺でも会いたいって言ってくれるでしょう?それはきっと俺が君の住む人道のどっかで暮らす偉い地位の会社員だから言ってくれてるんであって、こんな寒くて暗くて寂しい冥府のどっかでこうして一人でパソコンに向き合って、君を必死に探してる俺に向けてじゃないんだってのは当たり前だけど分かってる。分かってるつもり。うん、分かってる。それでも俺は君の“会いたい”を期待しちゃうんだよね。なんだろ、きっと俺は君がすっごく好きだったんだなぁ。ほろほろほろってね、毎日寝て起きるたびに、だんだん、君の声とか姿とかがほころび落ちていくんだよ。それでもね、俺は君がすっごく好きだったんだきっと。だって、君がいなくなったあとの俺はすぐに色んな手をつかって君を探して、探して探して、やっと賽河鬼男になってる元秘書を見つけたんだもの。君が覚えてるわけないのに、インターネットって世界で君を探し当てて、意気投合して、スカイプで繋がるっていうきっかけを得て、毎日こうするのが楽しみなんだもの」
閻魔の言葉に答えるように、ぎしぎしと椅子が鳴った。
それ以外に答えるものはなにもない。
だからこそ閻魔は饒舌に、鬼男と言う名前の横でオフラインを示す灰色のマークへ話し続ける。
「鬼男くんにとってはなんてことない日常の一端なんだろうね。けど俺にとっては毎日の楽しみなんだ。
君がいなくなってどれくらい経つだろ。どうでもいいんだけどね、本当は。ただ昔の俺はきっとここでスカイプなんかで繋がろうとしないで、今すぐ君を探して会いに行ってたと思うんだ。鬼男くん会いにきたよって、君が覚えてるはずもないのに」
「鬼男くん、鬼男くんはどんな人生をこれから歩むんだろうね。どんな人と出会って、どんな人と素敵な恋をして、どんな家庭を持って、どんな暮らしをして、どういう死に方をして冥府に来るのかな。
その時俺は君を覚えてるだろうか。君は本当の俺を知ることになるだろうか。最近そんなことばっかりがずうっと頭を巡るんだよ」
「ね、もしオフラインで残したメッセージに会いたいって残したら、君は次オンラインになってそれを見たときどう思う?気持ち悪いって思う?それとも、会いたいって」
「鬼男くん」
スカイプの画面がいつまでも、先程の会話を鮮明に留めている。
人道に合わせたパソコン上の時計は、会話を終えてから三十分以上が経過しているのだと示しているのに、まるで今から話しかければ答えてくれるのではないかと疑うほどに、一瞬の時間を生きたまま閉じ込めている。
「鬼男くん」
時間の亡骸である冥府の中で、生きた時間に触れて。
「鬼男くん、鬼男くん、鬼男くん」
そして自分と違い“生きている”鬼男に触れて。
「あいたいよ」
届かない声が、言葉が、何度も落ちる。
会いたい、逢いたい、遭いたい、あいたい。
狭い室内を、うわごとのような閻魔の言葉が埋め尽くしていく。
その白い頬をするりと何か垂れたようだったが、あいにくと閻魔が気づく様子はなかった。



「ほら、傘だ」
「ん?」
「もうすぐきそうな予感がしてな」
「何がだね?」
「まぁ差しておけ。直ぐ分かる」
「どれ」
「…ほらきた」
「嗚呼、本当だな。すぐだったな」
「つかの間の晴れであったようだな」
「時に牛頭の」
「何だね」
「閻魔大王が寵愛していた秘書の名を知っているか」
「嗚呼勿論。鬼男だろう」
「我らは憶えているのだな」
「なんと、閻魔大王はお忘れか。あれだけ寵愛しておられたのに?」
「否、鬼男本人を忘れてはいまい。ただ鬼男を寵愛していた事は忘れておろうが」
「冥府に必要ないからか」
「そのようだ」
「ならば何故雨は降るのだろうかね、馬頭の」
「どういうことかな」
「冥府は閻魔大王の気分によってその模様を変える」
「我らが身をもって学んだことだな、其れは」
「吹雪は機嫌を損ねておられる時、稲光は主に頭痛を患っておられる時」
「特に何もないときは、常に生暖かい風が吹くな」
「では、雨は何なのだろうかね」
「哀しんでおられるからではないのか」
「何に対して?」
「鬼男がいなくなったからか」
「だが離別の痛みは冥府にいらぬものだ」
「だろうな。しかしそれと雨に何の関係があると言うのだね?」
「自分は、これが閻魔大王の涙の代わりと思うのだよ、馬頭の。おこがましいかも知れぬが」
「ほう」
「そして恐らく」



人道も雨が降っていることだろうよ。












「あれ、雨?」
長かった夏の終わりを流れる涼しい風を部屋に呼び込んでいた賽河鬼男は、ぽつぽつと立ち込める雨の匂いに首をかしげ、椅子から立ち上がった。
すぐ近くにあるベッドへ上り窓を閉めようとした鬼男はふと、何かを思うように目を細める。
あの閻って人(恐らく偉い)は、どうして実家暮らしの学生なんかに会いたがるんだろうか?
そして何故、自分は。
「……やば、本降りだこれ。天気予報ほんっとあてにならないなー」
だんだんと地面を叩く雨の音が強さを増していき、鬼男は慌てて窓を閉める。課題はもう済んだが、どうするか。またパソコンでもつけて話しかけてみようか。けど寝てたらどうしようもないよな。
そう悶々と考えているうちに、今の居場所がベッドの上だというのを思い出し、ばふっ、と体を横たえた。
家を揺るがすほどの大雨を人事のように聞きながら、ひとりごちる。
あの人は、誰なのだろう。
スカイプと言う媒体で繋がっているのだから全くの他人ではないのだが、鬼男が気になるのはそういう他人か否かと言う“誰”ではなく、会ったことがあるのではないか、と言う“誰”だ。
ただ、鬼男にはそれが思い出せない。
なんとなくそんな気がする。それ以上もそれ以下でもない現状では、閻に聞くことも憚られた。
だから、会いたい。
会って、どんな顔なのか見てやりたい。
「どうせ爺さんなんだろうけど」
んー、とベッドの上で猫のように全身を伸ばし、鬼男は呟く。
時計を見れば、針は夜の十一時を差していた。この時間はまだ眠れないと大体起きているのが普通であるはずだった鬼男だが、数学で頭を使ったせいだろう、早々に眠気が襲ってきた。
せっかくだからと眠気に抗うことなく目を閉じれば、ふ、と声が響いた。

鬼男くん

おにおくん

会いたい

あいたいよ

ああ、僕も会いたい。
けれど、“誰”に?
その声に答えを返す前に、鬼男の意識はゆったりと眠りの海へと沈んでいった



***
補足(?):
暗褐色=セピア色

牛頭と馬頭のしゃべり方は趣味です。もう少し古風にしたかったけどこれが限界;;
文才欲しいなぁ……。
どうでもいいんですけど、Skypeの「ぴょこっ」って音が好きなのは私だけでしょうかね。

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 プロフィール 
HN:
文月 零架(フミツキ レイカ)
性別:
女性
職業:
心意気は小学生
趣味:
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自己紹介:
日和の天国組とTOVのユーリさんが好きなあらゆる意味で変態な物体X
本名はフォルデモンド・アエーネス・REIKA・97779・ネフェルタリー
これを略すると「零架」になります
(※大嘘)

文を書いたり本を読んだりが大好き。
ちょっとしたことですぐ凹む、豆腐より脆いハートです←
あ、豆腐は言いすぎた。

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神話や伝説と言う単語だけでも反応する上、鬼とか名前が出ると飛びつきます←
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Material: Studio blue moon
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Union
重要なシーンのネタしか浮かばないからしょっちゅうスランプなんだよ同盟
名前だけで私のすべてを表してくれているような同盟。
長編を歪みなく書ける人は本当にすごいと思います。

小説書きたいんですけどね。同盟
ものぐさには大変ありがたい主張にございます。
ちゃんと更新できる人を尊敬します。

オチムズイズム
オチって何ですか。←
ラストがたまにどうしようもなくなります。

突発作品削除宣言
削除と言うかリメイクと言うか……。
いちおう宣言させてください。

シリアス日和同盟
基本的にここにギャグ要素の日和作品は少ないです
ご了承いただければと思います

「腐女子対象」宣言同盟
と言っても鍵かけられないので「裏!」と言えるものはここにはないですが。
▼ とけい。
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