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なんでもない日常の向こう

2009.09.08 - 捧げ物
恐れ多くも尊敬する酒本様に捧げさせていただくものにございます……!
こんな奴に付き合ってくださって本当にありがとうございます!!


※Attention
・天国、学パロ
・転生入ってます(鬼男は記憶をうっすら保持している感じです)
・甘い雰囲気を目指して書かせていただいております
・転生の雰囲気が分かりにくいかも知れません;


以上の事柄が大丈夫な方は追記よりお願いします。
なお、お持ち帰りは酒本様ご本人のみでお願いいたします。




『君に言えなかったことばを、追いかけた向こう側で口にする』




橙色の光が、もう授業も部活も終わって静かになってしまった教室の中に入り込んでいた。
ゆらゆらと揺らめく、教卓に隠れてしまった、わずかな暗がり。それをどう照らしてやろうか、そんな風に考えていたであろう光は、しかし次の瞬間がらっと勢いよく教室をあける音と、そこに入り込んできた二人の人影に遮断される。
「なんでこういう時に限って忘れ物とかするんだよお前は」
「仕方ないじゃん!鞄の中に入れてたつもりだったんだよ!」
呆れたような声に、ムキになって返す声。続いてがたがたと机の中を荒っぽく探す音が響いた。
「よっし、あったー」
「忘れものってそれですか、閻魔先輩」
「そーそー。オレが愛用してるカンカンです。ほら、ちゃんと君が誕生日にくれたストラップ付きだよ?」
「いちいち見せなくて結構」
「何だよー冷めてやんの。て言うか君はつけてくれてんだろうねー?鬼男君」
「……」
鬼男、と呼ばれた方は軽く肩をすくめる。
そして、軽く辺りを見回してから、こちらも黒い装丁の携帯電話を鞄の外ポケットから出して見せた。
薄いタイプの携帯電話のちょうど真ん中あたりに、ガラス玉のような装飾をもった小さなストラップが揺れた。
「おー、カンシンカンシン。ちゃんとつけてくれてんだね。オレが君から貰ったのとおんなじ奴」
「つけてないと誰かさんが煩そうですからねー」
「何か?」
「いいえ、何も。それより早く帰りましょう。生徒指導に見つかったら厄介でしょ。下校時間はとっうにすぎてるしその上校則違反の携帯まで持ってるのを見られたら」
「はーいはいはいわーかってるよ!もう、少しは浸らせてよねー。せっかくいいムードになってんのにさ」
やれやれ、と呟きながら閻魔も自分の鞄を持ち上げて、鬼男がしまった場所と全く同じところに自分の携帯――いわく『カンカン』、をしまった。
ムードって何のことやらと鬼男は目を細めたが、それ以上閻魔が追及しないからか、はたまたそこまで興味がないのか。
閻魔が準備を終えたと知るや否や、行きましょうかと教室を出ていく。
「……本っ当、ムードのむの字も知らないんでやんの」
あーあ、と閻魔はひとりごちながらだんだんと色を失う教室を見ていたが、廊下の方から、おいていきますよ先輩、と聞こえると、
「はいはーい今行くからおいてかんといてー」
そう言いながら、来た時と同じように教室を出ていった。








「あぁもう、先輩が携帯忘れたーなんてドジ踏むから夕方も終わりそうな感じじゃないですか」
「いいじゃん夕方。オレは好きだもん」
二人が校舎から外に出た時には、先程まで教室に入り込んでいたきつい橙が嘘のように薄れ、そろそろ訪れるであろう夜の藍色に呑みこまれそうになっている頃だった。
通り過ぎる風がさらさらと、通学路の脇に佇む背の高い雑草を揺らしていくついでに、二人の頬を撫でていく。
「まぁ、確かに今の時期は残暑が厳しいですもんね。このくらいの時刻がちょうどいい」
「でしょ?オレが忘れ物したからいい時間に帰れるんであって」
「それとこれとは話が別です」
閻魔が言おうとする弁解をあっさり切り捨て、鬼男は閻魔より少し早く道を行く。
そうしていつも通る坂道の、ガードレールがある曲がり路まで差し掛かった時。
「ねえ、鬼男君」
ぶちぶち文句を呟きながら鬼男の背後を歩いていた閻魔が、不意に先を行くその背中に声をかけた。
「なんですか?」
「鬼男君ってさ、“逢魔が刻”の話知ってる?」
「オウマガトキ?……聞きなれない言葉ですね。何ですか?それ」
不思議そうな顔で閻魔を見る鬼男の傍をゆっくりと通り過ぎ、閻魔はガードレールの方まで歩み寄る。
あんまりそっち行くと危ないですよ。鬼男は言うが、それを気にしないままでガードレールに手をかけ、続けた。
「昔はねぇ、これくらいの時間の境目をそう呼んでたんだよ。読んで字のごとく、魔と人界が交錯する時間帯。……鬼男君はさ、夕暮れを見てると寂しくなったり、何となく切なくなったこと、ない?それは、この時間帯が魔の出てくる時間だけじゃなくって、あの世とこの世が交わるからあの世の思いとか、こっちに溢れてくるからなんだってさ」
「そう、なんですか?」
鬼男は閻魔をじっと見ながら、どこか震える声で呟くように答えた。
無意識なのかそれとも意識してなのか、ぎゅっと胸元の服を掴みながら、それでも目線だけは閻魔に向けていた。


何なんだろう。何で先輩はいきなりこんな話を始めたのだろう。
頭の中でぐるぐると廻る思考ばかりが、鬼男の息遣いを苦しくする。
早く、いつものように言わないと。先輩、そんな無駄話いいから早く帰ろうって。このまま聞いてたら頭がぐるぐるしてどうにかなりそうだ。
思考ばかりは焦るのに、鬼男の口から洩れるのは言葉でなく、ただ胸の奥のいがいがした何かを吐き出す息だけだった。


「そう、だからね、オレもこの時間帯は、すっごく強くなるんだよ」
「何、が?」
夕闇のせいだろうか、閻魔の顔が何処か寂しげに見える気がして、鬼男は頭を揺さぶるくらいの煩い鼓動を感じた。
だが、閻魔はふふっと「してやったり」顔で、鬼男へ笑いかけた。
「君を好きな気持ち、に決まってるじゃん」
「は?」
閻魔はガードレールに体を預けるように、鬼男へ向き直る。初めこそ意味がわからないとばかりにぽかんとしていた鬼男は、次第にその言葉が浸透してきたのか、その頬がだんだんと赤みを帯びていった。
「あれ?まさか気づいてなかった?オレ結構前から君にアタックしてんだけどねー。わざわざ委員会で君を補佐に任命したり、一緒に帰ろうって毎日我ながらウザいくらい誘ったり、わざと携帯忘れて教室で二人きりの時間を作ろうとしたり、ストラップ見せつけたり」
気付かなかったのかよー、と閻魔はぶーぶーと一人ごちる。
「君が好きでたまんないから向こうからこうやって追いかけてきてんのに、さ」
「お、追いかけ……って、どこから?」
鬼男は半ば茫然と閻魔へ問いかける。
しかし閻魔はそれを無視して、にやっと鬼男へ笑みを向けた。
「て言うか何ぽかーんってしてんの鬼男君。オレが真剣な話してるって思ったんじゃないの?ま、確かに真剣な話だけどねー。閻魔一世一代の告白ってやつだしね。そう思うでしょ」
「……ばっかじゃねぇの?」
茫然と閻魔の話を聞いていた鬼男だったが、やがて閻魔につられたように小さく笑みを漏らす。
馬鹿でもいいもんねー、と閻魔は相変わらず笑みを浮かべながら答えた。
「オレは君と会って初めて素敵な恋に気づいたわけですよ。だから、君に会うためなら時空だって世界だってなんだってこえちゃうよ」
「うっわ、クサい台詞」
「それだけ君が好きってこと。分かってんでしょ?オレはこんなに君が好きなの。大好きなの。フォーリンラブしてんの。君はどんなにオレがアピールしても気づかないニブチンだから苦労してんだよ?これでも。
だから少しはオレの気持ちに答えてくれてもいいんじゃない?オレは、鬼男君が世界で一番大好きって何度も何度も言ってるんだし、これからもずーっと君が気づくまで言うつもりだし」
閻魔がそう言いながら、じっと鬼男を見つめる。
今まで痛いくらいに見つめていたと言うのに、急にいたたまれなくなったか鬼男は目線をふいと外した。
嬉しいやら恥ずかしいやらで変にゆがみそうな口元を、本来なら出もしない咳をして隠しながら。
「……んなこと真顔で言うか普通。恥ずかしいやつ」
「あ。鬼男君照れてる?照れてるべ?仕方ないよねーこんな何処をどうとっても完璧!なオレが珍しく真剣に好きだなんて告白してんだから、君も可愛い照れ顔の一つや二つ見せるよねー。オレって本っ当つ・み・づ・く・り」
「っ誰がお前の告白なんかで照れるんだよゲソ野郎が!捕獲されて水族館で展示されろ!」
お前なんかもう知らん!と鬼男はふいと閻魔に背を向け、肩を怒らせ歩いて行く。
言いすぎたかなぁ。閻魔は首の後ろをがりがり掻きながらその姿を見ていたが。
「……まんざらでもないんじゃん」
耳まで真っ赤になっている鬼男の姿に気づき、溢れる笑いをこらえながら呟く。




やばいな、オレ本当に鬼男君が好きみたい。
鬼男君がオレのこと忘れてようが覚えてようが関係なく、大好きでたまんないみたい。


なんて、そんなことはオレがこっちに来てる時点で、全部今更なんだけど、さ。




そんな事を思いながら鬼男へ向かって走った閻魔は、ぐいっと鬼男の腕を半ば無理やり自分の腕に絡めるようにした。
「まぁまぁ怒りなさんな、図星突かれたからって。それよりゲーセン行こうよゲーセン」
「別に怒ってませんしって言うか腕放せ」
「お断りしまーす。で、行くの行かないの?」
「どーせまた音ゲかプリクラかでしょ?そんなに時間もかかりませんし、つきあいますよ」
「鬼男君太っ腹!じゃあゲーセンの後はそのままオレの家までゴーイングしようか?」
「何でそうなるんだよ。つか家近いからいいでしょ別に」
「だってーオレまだ君から答え聞いてないし。じっくり、じーっくりオレへの気持ちを聞かせてちょうだいね?オレのとこで」
「………聞かなくても知ってるくせに……」
「何か言った?」
「いいえ、何も?今日はとにかく帰るったら帰ります、うちに。先輩の家にはまた機会があればお邪魔しますから、今日は帰らせてください」
「けちー」
「けちじゃない。て言うか僕にも事情ってものがあるんです」
「……ふーん。へー。ほー」
「その顔ムカつくんですけど」
「真っ赤な顔で事情とか言われても説得力ないんですけどねー?」
「ほっとけ」













なんでもない日常の向こう
(溢れるばかりで止まらない感情を、かつて言えなかった君への思いを、この場所で)















***
大変お待たせしてすみませんでした;;
転生有で甘い閻鬼リクの作品にございます!

甘いんだか切ないんだかよくわからない雰囲気になってしまい、本当にすみませんorz
私としてはかなり甘い路線でいったつもりですが、書きなおしなどありましたら遠慮なくお願いします……っ……!



ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
そしてこれは、私のわがままし放題な言動でも優しくお話してくださる酒本様へ愛をこめて……!

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文月 零架(フミツキ レイカ)
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職業:
心意気は小学生
趣味:
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自己紹介:
日和の天国組とTOVのユーリさんが好きなあらゆる意味で変態な物体X
本名はフォルデモンド・アエーネス・REIKA・97779・ネフェルタリー
これを略すると「零架」になります
(※大嘘)

文を書いたり本を読んだりが大好き。
ちょっとしたことですぐ凹む、豆腐より脆いハートです←
あ、豆腐は言いすぎた。

あと妖怪関連とかも大好き。
神話や伝説と言う単語だけでも反応する上、鬼とか名前が出ると飛びつきます←
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