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2024.05.19 - 
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01:この一週間だけ、僕のものになって

追憶の苑さまの「期限付きの恋人」より。
ED後フレユリ。捏造有ります注意。


別館からの移転作です。
ちゃんと終わらせられるかすごく不安(お前


「“凛々の明星”は、余程のことがない限りはどんな事でも引き受けてくれるのかい?」
「どうしたんだよ、藪から棒に」
何か引き受けて欲しい仕事でもあんのか、と、目の前で深く清らかな黒を揺らして彼は笑った。

ザーフィアスの下町。そこで唯一の宿屋であり酒場をも兼ねている「箒星」の中、カウンターに座って隣同士カクテルを交わしながら、他愛ない話を交わした。
曰く、すっかり便利屋ギルドとして名前が浸透してしまったためか、最近は個々で動くことのほうが増えてきている。ユーリは主に行商の護衛や魔物退治のための傭兵を、ジュディスはバウルを駆り物資や手紙の運搬、果ては馬車ならぬ竜車、のようなことを、そして栄えある凛々の明星の首領カロルは、そういった依頼の統括・区分の他に自らも何かしら仕事を頼まれ動いているとのことだが、どのようなものかまではユーリ自身把握してはいない。
とは言え依頼全体の統括や区分はすべて首領であるカロルに委ねられているため、依頼する際に首領には話をつけてもらうのは最低限のルールではあるらしい。
例えばもし、ユーリがその場でフレンから何かしら依頼を受けた場合は、できる限り早く首領に知らせるという形をとらなければならない。
それがユーリ個人でなんとかなるものだとしても、だ。
「で?騎士団長様は“凛々の明星”にどんな依頼をお望みなんだ?」
天井から吊るされた幾つかの「デンキュウ」とやらが淡く揺れる他には、酒場の中に光という光はない。
先刻ここを訪れる際に見上げた空には、月が青みがかった光をたゆたわせていた。
が、やはりそれだけだ。
真昼のような明るさなど、今の時刻では望むべくもない。
酒場の中もまた、静かだ。普段ならば下町の酔っ払いの老爺やら旅人やらで夜中でも賑やかなこの場所はしかし、時刻が時刻だからなのか、或いはたまたまなのか、人の気配は見受けられなかった。
酒場を仕切るおかみはまだ起きているようではあったが、奥の方に引っ込んでいてこちらに顔を出す気配も無い。ついさっきまでカクテルをわざわざ用意してくれたりと細々したことをしてくれてはいたが、今頃は帳簿をつける作業でも行っているのだろう。
ユーリもフレンも、あんまり夜更かししないのよ。
柔らかく笑いながらも母親のようにそういう彼女へ、この歳になった男二人にまだ言うか、などと苦笑いを浮かべたのは、三十分ほど前だっただろうか。
それから二人でカクテルを飲みながら、世間話に花を咲かせだしたのがおよそ二十分前。そして、フレンがユーリに依頼をしたいという素振りを見せたのが、つい五分前の話だ。
「先に言っとくけど、本来騎士がやらなきゃなんねぇことを肩代わりってのはできないぜ。あくまでオレ、ギルド員だから」
「さすがにそれは、騎士団長としてやらせるわけにはいかないな」
と言うことはそういう依頼もあったのか?と顔を曇らせれば、無言の肯定が返ってきた。
裏を返せばそれは、帝国とギルドがそれなりに友好関係を築けているのだと捉えられなくもないが、それでも嘆かわしいことに代わりは無い。
騎士という身分、身なり、称号は単なる飾りとしてではなく、皇帝の名代としてその意思や帝国の在り方を体現すべき存在である。にも関わらずその責務を、面倒だという理由ひとつでギルドと言う、帝国とは一線を画す存在の独立勢力へ一時的でも譲渡すると言う行為は、その最も上に立つ団長として恥ずべきものに他ならなかった。
きっぱり断ったついでに説教しといたから気にすんな。黙り込んだ途端に軽い調子で言われ、思わず笑みが浮かんだ。
ギルドのような自由な場所にいるこの親友は、時折羨ましいほどに眩しく感じる。
共に騎士をやっていた時代から既に規則でがちがちに固められ身動きの自由が利かない騎士にうんざりしていたせいもあるのだろうが、なにものにもとらわれないギルドの生き方は、普段の筋が入った行動を更に凛と際立たせているように見えてならない。
もともと性分としてあってるんだよ、というのは今目の前でカクテルをゆるゆると飲むこの幼馴染みの男の言だが、彼がひどく眩しいのはおそらくそれだけではないのだろう。
きっと、憧れているのだ。渡り鳥にも似た自由な彼の姿に。

そう、憧れているからこそこの「依頼」を口にすることをためらった。
これからこの親友に頼もうとしているそれは、ともすれば単なるわがままだ。正式な依頼と言うにはあまりにも身勝手に、彼を縛り付けることになるだろう。
そちら側の趣味があるかと問われれば、甚だ心外だとは思うものの、反論は出来ない辺り完全にないと言い切れない。それが実に歯がゆいが、どちらにせよこの手中にユーリを入れたいと言う暗い欲望は隠せない。
なんて醜い独占欲だ。
フレンはカクテルを口にしながらそっと自嘲する。
幼馴染みであり親友であるというその境界線を踏み越えてみたい。そのために気もない君を、依頼にかこつけて傍に置いておきたいなんて。
そんなことがユーリに知れてしまったら。
「で、どうなんだ」
「え…」
「依頼だよ。あるんだろ?騎士団長様直々の」
それとも騎士代表としての依頼か?と、ユーリは目を細める。切れ長でありながら柔らかい、黒と言うよりは紫に近いような眼差しがフレンに向けられた。
その依頼を口にしたら、どういう目で見てくるのだろう。胸に滲むやるせなさを誤魔化すようにカクテルを傾ければ、そこに浮かんでいたチェリーの鮮やかさが視界に飛び込んできた。
このまま何も言わなくて済むなら。或いは、子どもの頃のように軽々しく、なんの欲望も躊躇いもない純粋さで、それを言うことができるなら。
きっと。
「いや、今回は騎士代表としてではないし、団長としてでもない。フレン・シーフォと言う個人からの依頼だと思ってくれれば、一番いい」
「フレン個人の?」
「そうだ」
今までにないパターンなのか、ユーリは途端に怪訝そうな顔でフレンを見た。
彼の反応は、至極まともだ。騎士団長でありながら、ギルドへの依頼が“騎士でもなく団長でもない個人”と言うのは、どうにも引っかかる物言いである。
相手がユーリだからこそまだ怪訝な様子で済まされているものの、違うギルドに同じようなことを言えば、ふざけているのかと憤らせてもおかしくはない。
「……まぁ、別にお前個人だろうと騎士団長からだろうと、依頼があるなら受けるけど」
その言い方なんか気に障るな。
ユーリはそう言うが、何某の事情があるものと思っているのだろう。特別に苛立ちを滲ませた様子はなく、それどころかどういうものだと興味すら惹かれた様子でフレンの言葉を待った。
カクテルを口にする。甘酸っぱい味とそこの中にたゆたうチェリーが、じんわり染みとおるような気がした。
黙ったまま、ともすれば意図的に依頼の話を避けるような行動が気にかかるらしい。遠慮ならしなくていいんだぜ、と口元にだけ笑みを浮かべてそういう。
そうやって、期待させるようなことを言わないで欲しいものだ。
フレンはひとりごちたが、その内面を知る者は本人を置いて他には誰もいない。十年来の親友でさえ、誠実なこの騎士団長が裏に抱える歪んだ思いを知らないのだろうから。
それでも、笑みを浮かべた。
冗談でいい。期限があろうが構わない。
「なら、単刀直入に言わせてもらおう」
本当はこれを通して何かしら自分の思いに気づいてもらいたいと言う気持ちもなくはなかったが、同時にそれを期待することすら、胸の奥に影を生んだ。
そのような権限がないからと言うよりも、大好きだと思う者の翼を自らがもぎ取るその矛盾に、耐えかねるからだ。
「僕は君に、個人的に依頼したい」
それでもこのようなことを口にして籠に閉じ込めようとするこの行為をエゴといわず、何と言うべきか。
個人的な依頼と言う名目ゆえに職権乱用とまではいかないが、その代わりに子どものわがまま以上に性質の悪いものだと自覚する。
自覚していながら、フレンはそれでも言うのだ。
「この一週間でいい。僕の傍へいてくれないか」




「……は?」
それを受けたとき、当然ながら返す言葉がなかった。
ギルドの人間を個人的な所有物にして、何を目的としているのだろうか。この幼馴染みは。
そう思いかけて、あぁそういやこれってフレン個人の“依頼”なんだっけか、と思い直した。
だがそれでも、疑問は残る。
自分が一週間フレンのそばにいるとして、ならばどうして欲しいというのだろうか。
「それってつまり、騎士団に一週間ほど所属しろって?」
「言ったはずだ。これは団長ではなく、僕自身の依頼だと」
「まぁ…そうだけどよ」
そんな事を依頼して、何の利益があるというのだろう。
団長としてなら分からなくもない。剣の腕なら昔からそこらの騎士には劣らない自信があるし、フレンもそのあたりを知っているだろう。
だから団長として一週間云々といわれたならば、騎士と協力して何某をどうこうしろと言う依頼でも来るだろう、というおおかたの予想が立てられる。
だが、今回は違う。今回は、フレン個人の依頼だ。
その上で「一週間僕の傍にいてほしい」とは、つまるところ自分になにをどうしろというのだろう。
いかに十年来の付き合いとはいえ、さすがのユーリも返答に困った。
なまじ断れるような依頼でないだけに、尚更だ。
「報酬なら、希望する額を支払うよ。前払いを望むならそれにも答えよう」
「フレン、お前」
「一週間以上引き止めるつもりはない。期限が過ぎれば、好きにしてくれて構わない」
「いや、だから」
「他にも何かあるのかい?」
フレンが冗談を言っているようには見えなかった。
蒼穹の瞳はあくまで真剣そのもので、冗談言うなと笑い飛ばすことは愚か、馬鹿だろお前と呆れることすら、その前では許してもらえそうにない。
はい。もしくはいいえ。
依頼に対しての返事は、その二つ以外にすべて封印されてしまった。
ならば。
「分かったよ」
あえてその懐へ飛び込んでみるのも悪くはない。
そう結論づけた上での答えだった。この親友が今更自分を意図して貶めることはないだろうという確信もある。
そこに根拠はない。
だが、信憑性ならば高いといえよう。
少なくともこの騎士団長の下にいても、己のギルドが何か不合理を負うことはあるまい。余程のことがない限りは。
「それは、依頼を受けてくれると捉えても?」
「ああ。夜空に瞬く凛々の明星の名にかけて、仕事請けさせてもらうぜ」
目の前にあった碧眼が、柔らかく細められていく。
自分の感情に対して、親友は驚くほど素直だ。昔から全く変わらないし、今後も変わることはないのだろう。
だからこそ、ますます理解ができない。
良くも悪くも素直である彼が、一介のギルド員でしかないこの身をやたらと傍に置きたがる理由も。
それを承諾したときの、嬉しそうなこの顔も。
もしかしたら傍に自分を置く口実にと、ギルドへ依頼をしたのかも知れない。
だとしてもその意図は全くもって不明だ。
時折この親友は、全くもって読めない言動をする。性根としてはむしろ自分や、この場にはいないが同じギルド仲間であるジュディスとは真逆の素直さがある、と思うのだが。
実際フレンは隠し事が苦手な方だし、ポーカーのような顔色を読まれるとまずいゲームには確実に不向きだろう。
ただ、隠そうとしない分こちらの理解が及ぶ範疇を一気にすっ飛ばす言動をたまにやってのける。
はっきり言って、隠し事が上手いタイプよりも時に性質が悪い。しかも無自覚なので更に性質が悪い。
フレンが一度目を閉じた。周りの気配が随分と穏やかになる。
かと言って今まで気を張っていたという訳でなく、単にこちらの返答待ちの間緊張していただけのことらしい。
何故かは分からない。と言うより、そこまで突っ込んで聞くのはいささか面倒くさい気もする。
「たとえこれが依頼だとしても、請け負ってくれて嬉しいよ……ありがとう、ユーリ」
「何だよ、むずがゆいな。酔ったのか?」
カクテルを軽く揺らしてみせる。反応してぱちりと開いた奥の蒼穹が、揺れる液体を捉える。
たゆたう酒に何かを見たのだろうか。ゆっくりと、そこに自嘲の色が浮かぶ。
「ああ、そうだな。…そうかも知れない」
嘆息したのと一緒に落ちてきた言葉には、自分に言い聞かせているような響きがあった。
いっそ酔っていたら良かったのに。
続いてそう呟く声を耳が捉えたが、聞かなかったことにした。意味を問いただしても、恐らく明確な答えは得られないだろう。答えを話してくれそうな雰囲気もない。
人工的な光が小さく瞬く。その手から外れた椅子や机は僅かに輪郭のみ残して、あとはすべてが濃縮された真っ暗闇に呑まれている。
「で、フレン」
つ、と最後の一口を流し込む。名残惜しい甘さに舌が痺れた。
「結局のところ、この依頼でオレは何をすべきなんだ?お前に」
傍の肩が一瞬ぎくりと揺れた気がした。
が、別に何かまずいことを問うたわけではないらしい。
「特にはないかな。傍にいてくれたらそれでいいと思っているから」
「そんなんオレじゃなくてあの猫目姉ちゃんにでも頼んだほうがいいんじゃねぇの?」
「ソディアは違う」
「何が」
問いかけても返ってくるのは、違う、の一点張りだ。
意味が分からない。
ただ傍にいることだけを望むならば何も外部から雇わずとも、内部にいくらでも騎士団長たる彼を慕うものはいる。彼らに傍仕えを頼めば、それこそ喜んで奉仕することだろう。
自分がそうしているように、いちいち勘ぐられることもなく。
それでも、フレンはユーリを選んだ。
そこに何か思うところがあったのかも知れない。自分がフレンと幼馴染みだと言うのはそこまで大きなものとはあまり実感などなかったが、こうも強情に言われてしまうと否応にもそれを意識せざるを得なかった。
城でかの騎士団長を心から慕う者らよりも本人は、目の前の幼馴染みである男を相手に選んだのだから。
「ま、受けた以上降りることはしねぇから安心しろよ。途中放棄は義に反する」
「困っている者を見捨てていくことになるから、か?」
「お前は困ってなさそうだが、まぁそんなとこだな」
小さく肩をすくめてみせる。
相変わらずだね君は、と隣の声が少しだけ明るくなった。
「全然変わっていない。騎士団を抜けても、ギルドに入っても、星喰みを倒しても」
「そんなほいほい変わってたまるかっての」
「確かにね」
フレンもまたカクテルの最後を煽る。
飲み干されるそれをちらと見やり、席を立った。
「さて。いい時間になったしそろそろお開きにするかな。おかみさんが怖い」
「そうだな。…ユーリ」
「あん?」
「依頼の内容に沿うなら一緒に来てもらうことになるけど。と言ったら君は、僕と一緒に行く気があるかい?」
何処に、とは今更聞くまでもない。この帝都の象徴たる城の中、更に言うならフレンの私室を指しているのだろう。
冗談、と顔も合わせずに笑えば、諦めにも似た笑みが浮かぶのを隣に感じた。
「あんなとこいたら窒息死しちまうよ。それに、用もないギルドの人間が一週間も団長の私室に滞在してみろ。それこそ大問題だろうが」
ひらひらと手を振って見せる。
ギルドと帝国の関係は、対立していた数年前を比較に出せばずっと良好であるほうだ。
もともと対立が帝国とギルドという大まかな組織ぐるみのものであるだけで、一般人までもが帝国だギルドだと対立を意識していなかったのも、今日の良好な関係に繋がっているかも知れない。
と言ってもそれは一介のギルド員が、アレクセイの頃より権限が落ちたとは言え、それでも雲の上の存在に等しいであろう騎士団長の私室に滞在していい理由にはならない。
それがたとえ、騎士団長ではなくフレン・シーフォ個人の依頼だとしても。
彼がそれを個人のものだと言い訳するには、あまりにも立場が違いすぎるのだから。
「心配すんな。そんな四六時中監視しなくても、依頼された一週間はここにいる。依頼を途中放棄してどっか行くこともしねぇよ」
「そうだね。君ならそう言うと思っていたよ」
対するフレンもそこのところは理解しているらしく、依頼だろう、などとごり押しはしてこない。
それでも、もしフレンにその気さえあれば。
ユーリはそっと目を細めた。
見つめる先に親友の姿はない。あるのは、ただ口をあけて待つ闇だけだ。
大体オレみたいな人間、騎士団長の傍に置いちゃ駄目だろ。そう口から零れる言い訳(何故そう思ったのか自分でもよく分からない)じみたものが聞こえたのかどうかはさだかでないが、部屋へ帰ろうと踵を返した背中に、こんな言葉が投げかけられた。
「けど、それなら君は毎日城へ通うことになるけど」
「そこのとこはちゃんと口添えしてくれるんだろ、団長閣下?」
「…全く」
嘆息。しかしそれは、聞きなれた色を含んでいた。
呆れたような、それでいてユーリの思惑を面白そうに見守り、場合によっては支持するようなもの。
「それならちゃんと、君には相応の格好をしてもらわないとな」
「そんなこと言われてもな」
「持ってるだろう?陛下から賜ったものを」
入り口のほうを向いているので顔こそ見えなかったが、フレンが背後で笑ったのがわかった。
品位に関わるからと普段ではまず見せないような笑み、下町の荒くれが浮かべる賭けに大勝した時のような、にこりと言うよりもにやりと表したほうが正しいようなそれを端正な顔に浮かべているだろう様が、瞬時に脳裏へ浮かぶ。
今の今まで忘れていたが、大真面目で気品ある団長閣下も元を正せば下町生まれ下町育ちなのだ。
あくまでそれを思わせる部分を普段、見せないだけで。
「…あーあー分かったよ。ちゃんと着てくりゃいいんだろ」
「君が今から来てくれるなら、あまり意味はないから構わないというところだけど」
「謹んで辞退します、団長閣下」
「なんだ、残念」
相変わらず残念そうに思えない声が、いっそ笑いを含んでいるようにも感じ取られる。
口で初めて負けた気がして無性に悔しくはなったが、溜め息をつくだけに留めておいた。
酒が回ってきたせいか、普段は応戦できるほどの言葉を瞬時に生み出す頭がほとんど回らない。
何より、不毛だ。
どちらを選んでも大差のない、と言うよりもこちらが不利だと分かっている上で楯突くほど、愚かになった覚えはない。
「やれやれ。一週間騎士の真似事か」
「悪くはないだろう?窒息死するよりも」
くすくすと声が続く。顔が見えない分、ほんの少しだけ恨めしく感じた。
感じたが、ユーリは振り返ることなく扉へと歩いていく。糠に釘だな、と欠伸をかみ殺す隙間から言葉が溢れた。
いつぞやにエステルが荷物袋へ、それこそ文字通り押し込んだ騎士の服を思う。
一度彼女自身のたっての要望で袖を通した記憶しかないが、さて自分はちゃんとしまっているのやら。
本格的に眠気がきたか、思考の波が途中で止まりかける。いいや、明日探そう。
明日はいつ来てもいいが、出来れば長く居てほしいから気持ち早めに。そう言ってくる幼馴染みに手で答え、ドアを開けた。
夜気が頬を撫で、少しだけ眠気を連れ去っていく。
「一週間でいいんだ。よろしく」



それと、ごめん。



それが抜け出た穴を埋めるようなフレンの声は、何故だか酷い自嘲に縁取られていた。
気が、した。

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文月 零架(フミツキ レイカ)
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職業:
心意気は小学生
趣味:
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自己紹介:
日和の天国組とTOVのユーリさんが好きなあらゆる意味で変態な物体X
本名はフォルデモンド・アエーネス・REIKA・97779・ネフェルタリー
これを略すると「零架」になります
(※大嘘)

文を書いたり本を読んだりが大好き。
ちょっとしたことですぐ凹む、豆腐より脆いハートです←
あ、豆腐は言いすぎた。

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